第15回 心理的安全性とAI:「失敗を出せる組織」がAIでも伸びる理由

AIを導入した会社の中に、はっきりと二つの型が見えてきました。数か月で見違えるほど使いこなす会社と、導入したまま止まってしまう会社です。道具は同じ、費用も同じ。違いは何か。私の見立てでは、失敗を出せる組織かどうか、です。今回は、心理的安全性とAIの関係について書きます。

■ AIは、失敗の回数を爆発的に増やす

AIを仕事に入れると、試す回数が桁違いに増えます。これまで一週間かけて一つの案を作っていたのが、一日で十の案を出せる。その分、外れる案も増えます。頼み方が悪くて見当違いのものが出てくる。それっぽい嘘に引っかかる。任せすぎて確認が抜ける。AIを使うということは、小さな失敗を大量に経験する、ということでもあります。

ここで組織の体質が出ます。失敗を出せない組織では、社員はAIで失敗したことを隠します。見当違いの出力を自分で直して、何事もなかったように提出する。あるいは、失敗が怖いので、そもそも大事な仕事にはAIを使わない。どちらにしても、組織としては何も学べません。導入したまま止まる会社は、ここで止まっています。

■ 自社での実践:AIの失敗を、責めずに言葉にする

第9回で、AIとの仕事で起きた失敗を言葉にして残している、と書きました。この習慣を続けていて気づいたのは、失敗を言葉にする作業は、責める気持ちがあるとできない、ということです。

AIが間違えたとき、「AIが悪い」で終わらせると、何も残りません。「自分の指示が悪かった」で終わらせても、同じです。残るのは、何が起きて、なぜ起きて、次はどうするか、を淡々と言葉にしたときだけです。そこには誰の責任かという問いがない。ただ、次に同じことが起きないための言葉があるだけです。この帳面が五百を超えたのは、失敗を責める空気がなかったからだと思います。

もう一つ、あるプロジェクトで決めたルールがあります。会議での発言を、その人の評価には使わない、というものです。AIの話とは直接関係のないルールでしたが、これがあると、「AIにやらせてみたら、こんな変なものが出た」という話が、笑い話として出てくるようになります。失敗が笑い話として出てくる組織は、AIが伸びます。失敗が隠される組織は、伸びません。

■ 組織開発の視点:心理的安全性は、AI時代の学習速度そのもの

心理的安全性という言葉は、この十年でずいぶん広まりました。意味は、この組織では対人関係のリスクを取っても大丈夫だ、とメンバーが信じられること。分からないと言える、間違いを認められる、反対意見を言える。それが、罰されたり、評価を下げられたりしないと信じられる状態です。

これまで心理的安全性は、良いチームの条件として語られてきました。AI時代には、それに加えて、学習速度の条件になります。AIで増えた失敗を、隠さずに出し、言葉にし、次に活かす。この回転が速い組織ほど、AIの使い方が早く上達します。逆に、失敗を出せない組織では、失敗は個人の中に閉じて、組織の知恵になりません。AIの性能が同じでも、半年後には大きな差がついているはずです。

そして、心理的安全性は、AIそのものには要りません。AIは何度間違えても傷つきませんし、責められても萎縮しません。要るのは、AIを使う人のほうです。AIの失敗を「自分の失敗」として隠さなければならない空気があるかどうか。AI導入の成否は、道具ではなく、この空気で決まります。

■ 経営者のためのAction

一つ目に、AIでの失敗を持ち寄る場を、週に一度、十分でよいので作ってください。うまくいった話ではなく、うまくいかなかった話を出す場です。責めない、言葉にする、次にどうするかだけを決める。この三つを守れば、その場自体が、組織の心理的安全性を育てます。

二つ目に、その場で最初に失敗談を話すのは、経営者自身にしてください。「AIにこう頼んだら、まったく見当違いのものが出てきた」と、笑って話す。上に立つ人が失敗を出せば、下の人も出せるようになります。AIで伸びる組織は、経営者が最初に失敗を見せた組織です。