ここから第3章「組織・チームをつくる」に入ります。第2章では人を育てる話をしてきましたが、AIが本当に力を発揮するのは、個人の仕事ではなく、チームの仕事に入ったときです。そして、そこでいちばん最初につまずくのが、情報の流れです。今回はその設計について書きます。
■ AIは「どこを見ればいいか」を知らない
新しく入った社員に、まず何を教えるでしょうか。仕事のやり方の前に、どこに何があるかです。顧客の情報はここ、進行中の案件はここ、決まったことはここに書いてある。これが分からないと、優秀な人でも動けません。
AIも同じです。AIに仕事を任せてうまくいかない会社を見ると、たいていAIが「どこを見ればいいか」を知らされていません。案件の状況は誰かの頭の中、あるいはメールの奥に埋もれている。AIは目の前に渡されたものしか見えませんから、会社の情報がそういう状態だと、毎回ゼロから説明することになります。任せるたびに説明が要る仕事は、任せたことになりません。
■ 自社での実践:正本を一つに決めて、人もAIも同じものを見る
私の会社では、AIと働き始めてから、情報の置き場所を作り直しました。原則は一つだけ、正本は一つ、です。案件ごとに一枚の経緯ログを置き、先方からの依頼、打ち合わせで決まったこと、次にやることを、そこに時系列で書き足していきます。AIはまずこれを読んでから仕事に入り、終わったら書き足す。私も同じファイルを見ます。人が見るものと、AIが読み書きするものを、同じにしたわけです。
さらに、動いている案件を一覧できるボードを一枚、置いています。書き換えるのはAIで、私は見るだけです。以前は、私が頭の中で把握している状況と、AIに伝わっている状況がずれていて、そのずれを埋める説明に時間を使っていました。今は、同じボードを見ているので、そのずれがほとんど出ません。
失敗もありました。タスクを管理する道具を新しいものに切り替えたとき、古い道具をしばらく残していたのです。すると、AIは古いほうにも書き込むようになりました。私は新しいほうしか見ていないので、AIが登録したタスクに気づかない。二つのボードがあると、AIは両方に書きます。人なら「どっちを見ればいい?」と聞いてくれますが、AIは聞きません。正本は一つ、という原則を、AIのほうが厳密に要求してくるのです。
■ 組織開発の視点:情報の流れは、組織の形そのもの
組織開発では、情報がどう流れているかを見れば、その組織の実際の形が分かる、と考えます。組織図がどうであれ、誰が誰に何を伝え、どこで情報が止まっているか。その流れが、本当の指揮系統であり、本当の壁です。
AIをチームに入れるということは、この流れに新しいメンバーを加えることです。ただし、このメンバーは、口頭の連絡も、雰囲気での察しも、まったく受け取れません。文書になっているものだけを読みます。だから、AIを入れると、情報の流れの弱いところが、はっきり露わになります。誰かの頭の中にしかない情報、メールの中に散らばった決定事項、二重に管理されている台帳。これらはすべて、AIが動けない場所として浮かび上がってきます。
これは、悪いことではありません。人だけの組織では、察しと口頭連絡で何となく回ってしまい、情報の流れを設計する機会がなかった。AIが入ることで、その設計を迫られる。多くの中小企業にとって、情報の流れを意図して作り直す、初めての機会になります。
■ 経営者のためのAction
一つ目に、動いている案件の状況を、AIに「今どうなっているか説明して」と聞いてみてください。答えられなければ、AIが読める正本がない、ということです。案件ごとに一枚、時系列の経緯を書く場所を決め、そこだけを正本にしてください。
二つ目に、同じ情報が二か所にある状態を、一つずつ消してください。古い台帳、使わなくなった管理表、個人のメモ。残しておくと、AIはそこにも書きます。正本を一つに絞ることは、AIのためだけでなく、人が同じものを見て働くためでもあります。同じボードを見る。チームづくりは、そこから始まります。
