第12回 認知の多様性とAI:MBTIの視点で見る「人とAIの補完」

「AIがあれば、自分の苦手なところは補ってもらえる。だったら、無理に違うタイプの人を揃えなくてもいいのでは」。MBTIの研修をしていると、最近こうした声を聞くようになりました。半分は本当です。そして、もう半分は、組織にとって大事なものを見落としています。今回は、認知の多様性という視点から、人とAIの補完について書きます。

■ 人には「心の利き手」がある

MBTIでは、人の心の働きを、対になる指標の組み合わせで捉えます。事実や具体を先に見るか(S)、全体像や可能性を先に見るか(N)。論理と原則で結論を出すか(T)、人の気持ちや価値観を重んじて結論を出すか(F)。どちらが優れているという話ではなく、右利きと左利きのように、どちらを自然に、楽に使えるか、という「心の利き手」の話です。

利き手があるということは、反対の手は使いにくい、ということでもあります。全体像から入る人は、細かい手順や事実の確認を後回しにしがちです。論理で決める人は、その決定が周りの人にどう受け取られるかを、見落としがちです。誰にでも、見えにくい側があります。この見えにくい側を、これまでは違う利き手を持つ同僚が補ってきました。認知の多様性がチームの力になる、というのは、この補い合いのことです。

■ 自社での実践:AIに、自分と反対の目で見させる

ここでAIの話になります。AIには、人のような利き手がありません。というより、頼み方しだいで、どの利き手の見方でも出してきます。事実と手順だけで指摘してほしい、と頼めば、そのように見ます。関係者の気持ちの側から見てほしい、と頼めば、そのようにも見ます。これは、人にはできない使い方です。

私は研修の資料を作るとき、この性質を使っています。一つの資料を、立場も見方も違う複数の役をAIに割り当てて、同時に見させるのです。現場の管理職の目、初めて参加する若手の目、細かい手順の抜けを拾う目、全体の流れが腑に落ちるかを見る目。自分ひとりの利き手では必ず見落とす点が、この並列の目からは上がってきます。自分の見えにくい側を、AIに演じさせて補う。これが、人とAIの補完のいちばん実用的な形だと思います。

ただ、これを続けて気づいたことがあります。AIの指摘は、腹が立たないのです。人から同じことを言われたら「なぜそこにこだわるのか」と引っかかるところが、AIだとすんなり受け取れる。楽です。けれども、その楽さの中で、自分の反対側の手は、少しも鍛えられていません。

■ 組織開発の視点:AIは補ってくれるが、育ててはくれない

MBTIのタイプ論では、自分が使いにくい側の機能は、それを自然に使っている他者と関わる中で、少しずつ開かれていく、と考えます。苦手な相手にイライラしながら、なぜあの人はあそこにこだわるのかを理解しようとする。その摩擦の中で、自分の中の使ってこなかった側が目を覚ましていく。認知の多様性の価値は、見落としを補うことだけではなく、この発達を促すところにもあります。

AIは、この摩擦を持ちません。反対側の視点は出してくれますが、そこに人としての体温も、譲れない事情もない。だから、補完はできても、発達は促さない。ここが、冒頭の「違うタイプの人を揃えなくてもいいのでは」への答えです。見落としを減らすだけならAIで足ります。けれども、人が育ち、組織が変わる力は、やはり違う利き手を持つ人どうしが、同じ課題にぶつかるところから生まれます。

そしてもう一つ。AIの出してくる答えを評価するのは人です。第8回で書いた「それっぽい嘘」を見抜く力は、見る目が多様であるほど強くなります。事実で見る人と、全体像で見る人が両方いる組織は、AIの間違いを、どちらかの目で拾える。AIが入るほど、認知の多様性は、要らなくなるのではなく、AIの答えを検証する組織の力として、いっそう効いてくるのです。

■ 経営者のためのAction

一つ目に、大事な判断の前に、AIに自分と反対の目で見させてください。全体像から入りがちな方は「事実と手順の抜けだけを指摘して」と、論理で決めがちな方は「この決定を関係者はどう受け取るか」と頼む。自分の見えにくい側を、まずAIで補います。

二つ目に、そのうえで、社内で自分とは違う見方をする人に、同じものを見てもらう一手間を残してください。AIの指摘で見落としは減っていますから、その人との対話は、以前より本質的な部分に絞られるはずです。AIで補い、人で育つ。この二段構えが、AI時代の認知の多様性の活かし方です。