第11回 採用基準が変わる:AIと働ける人に共通する資質

「これからは、AIを使える人を採らないといけない」。採用の相談で、最近よく聞く言葉です。方向は正しいと思います。ただ、この言葉をそのまま採用基準にすると、たいてい間違えます。今回は、AIと働ける人に本当に共通しているものは何か、そして採用基準はどう変わるのかについて書きます。

■ 「AIが使える」は、半年で古くなる

まず、落とし穴から書きます。「AIが使える人」を採ろうとすると、面接ではどうしても、どのツールを知っているか、どれくらい触っているか、という話になります。けれども、この連載を書き始めてからの数か月だけでも、私自身のAIの使い方は、文章を頼む道具から、複数のAIが分担して動く仕組みへと、まるで変わりました。今日「使える」と言えるやり方は、半年後には古くなっています。

つまり、道具の知識を採用基準にすると、入社した頃にはもう基準のほうが古い、ということが起きます。見るべきは道具ではなく、道具が変わっても残るもののほうです。

■ 自社での実践:AIに任せる側に半年立って分かったこと

私はこの半年、AIに仕事を任せる側として、毎日AIと働いてきました。うまくいった日と、うまくいかなかった日を振り返ると、その差は、AIの性能ではなく、私の側のふるまいで決まっていました。そこから、AIと働ける人の資質を三つ、挙げてみます。

一つ目は、仕事を言葉にできることです。AIに何かを任せるには、何をどこまで、どういう基準で、と説明しなければなりません。頭の中で分かっているつもりのことを、言葉にして渡す。これができない日は、AIの出してくるものも、ぼんやりしたものになりました。

二つ目は、任せたうえで確かめることです。丸投げして結果をそのまま使う人と、途中で全部に口を出して自分で抱え込む人。どちらもAIとはうまく働けません。任せる線を引き、上がってきたものを自分の目で確かめる。この往復ができる人が、AIから力を引き出します。

三つ目は、「本当にそうか」と問い直せることです。AIは自信たっぷりに、もっともらしいことを言います。それに対して、分からないことは分からないと言い、あやしいと感じたら根拠を出させる。この姿勢がない人は、AIの間違いをそのまま仕事に乗せてしまいます。

書き出してみて、気づくことがあります。この三つは、どれも新しい資質ではない。説明できる、任せて確かめる、問い直せる。昔から、良い部下、良い上司の条件として言われてきたことそのものです。AIは、この古い資質の価値を、あらためて浮き彫りにしただけなのです。

■ 組織開発の視点:採用基準は「変わる」のではなく「戻る」

採用の世界では長く、スキルや経歴よりも、行動の特性を見るべきだと言われてきました。過去にどんな場面で、どう考え、どう動いたか。それを具体的に聞くことで、その人が自社でどう働くかを予測する、という考え方です。

AIの登場で、この考え方はいっそう重要になります。スキルは道具とともに古くなりますが、言葉にする、任せて確かめる、問い直す、といった行動の癖は、道具が変わっても残るからです。ですから、採用基準が変わるといっても、まったく新しい物差しを作る必要はありません。これまで「人柄」や「地頭」といった曖昧な言葉でくくっていたものを、AIと働く場面に置き換えて、具体的な行動として言い直す。それだけで、基準は十分に新しくなります。

そして、この基準は採用だけの話ではありません。三つの資質は、育てることができます。言葉にする練習は仕事の報告の中で、任せて確かめる練習は小さな委任の中で、問い直す練習は失敗の振り返りの中でできます。採用で見る基準と、社内で育てる基準が同じであること。これが、AI時代の人材の考え方の土台になります。

■ 経営者のためのAction

一つ目に、面接で「最近、AIに何を任せて、どこを自分で確かめましたか」と聞いてみてください。ツールの名前は聞かなくて構いません。任せた線と、確かめた場面を具体的に語れる人は、道具が変わってもAIと働けます。語れない人は、たとえ道具に詳しくても、丸投げか抱え込みのどちらかになりがちです。

二つ目に、自社の中で、すでにAIとうまく働いている人を一人見つけて、その人のやり方をAIと一緒に言葉にしてみてください。何を任せ、どこで確かめ、どんなときに問い直しているか。それが、自社にとっていちばん確かな採用基準になります。基準は外から持ってくるものではなく、もう社内にいる人の中にあります。