「AIを使えば、誰が何をどれだけやったか、全部見えるようになりますよね。評価が楽になる」。そう期待される経営者は多いと思います。半分は当たっています。そして、残りの半分に落とし穴があります。今回は、成果が見えやすくなる時代の人事評価について書きます。
■ 見えやすくなるのは「成果」ではなく「作業」
AIを仕事に入れると、たしかにいろいろなものが見えるようになります。誰がどんな資料を何本作ったか、どれだけ速く返したか、どのくらいAIを使いこなしているか。数字にしやすいものが、一気に増えます。
ただ、ここで見えているのは、成果というより作業の量と速さです。しかも、その作業の多くはAIがやっています。人が一日で十本の提案書を出せるようになったとき、その十本は誰の成果でしょうか。AIが下ごしらえをした部分と、本人が考えて決めた部分が、成果物の上では区別がつかない。ここが、これまでの評価と決定的に違うところです。
見えやすいものは、評価に乗りやすい。評価に乗ったものは、人がそこに向かって動く。だから、作業の量や速さばかりが見える状態を放っておくと、会社は知らないうちに「AIをたくさん回した人」を高く評価する仕組みになっていきます。前回書いた「考える機会」を、評価制度が奪ってしまうのです。
■ 自社での実践:評価票をアプリにして分かったこと
私はある会社で、紙と手入力で運用していた人事評価をアプリに移す支援をしています。制度そのものは数年前に私が設計したもので、評価票は職種と等級の組み合わせで十七種類あります。数は多いのですが、構造はすべて同じで、違うのは着眼点の文言と配点だけです。
この移行で、AIに渡せたものと渡せなかったものが、はっきり分かれました。渡せたのは、十七種類の票を正しく選ぶこと、点数を集計すること、被評価者の一覧と評価者の組み合わせを間違えないこと。これらは人がやると必ずどこかで間違え、しかも間違いに気づきにくい仕事です。AIと仕組みに任せて、確実に良くなりました。
渡せなかったのは、着眼点に照らして、この人の半年をどう見るか、という部分です。事実は集まります。けれども、その事実をどう意味づけ、本人にどう伝えるかは、評価者にしかできない。むしろ、集計や転記の手間が消えた分、評価者はこの意味づけに時間を使えるようになったはずです。そこに時間を使うかどうかは、制度ではなく、評価者と会社の姿勢で決まります。
もう一つ、進め方で決めたことがあります。いきなり全社に広げず、まず評価者の間だけで小さく始めることです。評価の仕組みは、変えたことが本人に見えた瞬間から「評価が変わった」と受け取られます。道具を変えることと、評価の考え方を変えることは別物なので、順番を分けました。
■ 組織開発の視点:評価は「測る」より「育てる」
人事評価には二つの役割があります。一つは処遇を決めること、もう一つは人を育てることです。多くの中小企業では、制度上は両方をうたっていても、実際は処遇を決める道具として使われがちです。
成果が見えやすくなると、この傾きが強まります。測れるものが増えるほど、測って決めて終わり、になりやすい。けれども、評価で人が育つのは、点数をつけた瞬間ではなく、その点数の理由を評価者が本人に語り、本人が自分の仕事を振り返ったときです。評価者研修で私が繰り返し伝えているのは、事実を見る、着眼点で意味づける、本人に伝える、という三つの手順ですが、AIが助けてくれるのは最初の一つだけです。
だとすれば、AI時代の評価制度で問われるのは、残りの二つを制度の中にどう組み込むかです。たとえば、着眼点そのものを見直すこと。「AIに任せる部分と自分で握る部分を分けて仕事を進めているか」「AIの答えをそのまま流さず、自分の判断を加えているか」。こうした着眼点が評価票にあれば、部下は作業の量ではなく判断の質で見られると分かり、動き方が変わります。評価制度は、会社が何を大事にしているかを、いちばん正直に伝える道具です。
■ 経営者のためのAction
一つ目に、自社の評価票を一度、AIと一緒に読み直してください。「この着眼点は、AIが作業を肩代わりした後でも、本人の力を測れているか」と問いかけると、作業量に寄っている項目が浮かび上がります。そこに、判断や工夫を見る項目を足す。全部を変える必要はなく、一つ足すだけで、部下への伝わり方は変わります。
二つ目に、評価の作業のうち、集計や転記といった機械的な部分は、思い切ってAIと仕組みに渡してください。浮いた時間を、評価者が本人と話す時間に振り向ける。評価が楽になるというのは、点数を出すのが楽になることではなく、人と向き合う時間が増えることです。その使い方を決めるのは、経営者の仕事です。
