第4回 仕事を「分解する力」が、AI時代の経営の基礎体力になる

「うちの仕事は属人的だから、AIには任せられない」。経営者や後継者の方から、よくそう言われます。気持ちはよく分かります。長年の勘や経験で回してきた仕事を、機械に渡せるとは思えない。

けれども、立ち止まって考えてみると、任せられないのは仕事の全体であって、仕事のすべての工程ではないことがほとんどです。問題はAIの能力ではなく、自分の仕事をまだ分解できていないことのほうにあります。AI時代に効いてくるのは、この「仕事を分解する力」です。

■ 仕事は、ひとかたまりに見えて工程の集まり

私たちは自分の仕事を、つい大きなひとかたまりとして捉えがちです。提案書づくり、採用、経営判断。こう呼ぶと、まるごと人がやるしかないように見えます。

ところが分解してみると、ひとつの仕事はいくつもの工程でできています。たとえば提案書づくりなら、情報を集める、論点を整理する、たたき台を作る、内容を吟味する、最終的に決める、という工程に分かれます。こうして割ってみると、集める・整理する・たたき台を作るあたりはAIが得意で、吟味する・決めるは人がやるべきだ、という線が見えてきます。分解して初めて、任せられる部分が姿を現すのです。

■ 自社での実践:まず自分の一日を割ってみた

私は自分の仕事を見直すとき、AIと対話しながら、一日の業務をひとつずつ書き出していきました。この作業は何をしているのか、その前後に何があるのか。声に出して説明し、AIに整理してもらう。すると、自分でも曖昧にしていた工程が、はっきりと並びました。

そのうえで、それぞれの工程に、これはAIに渡せる、これは人が握る、と印をつけていきました。結果として、前半の下ごしらえはAIに任せ、後半の判断は自分が引き受ける、という形に落ち着きました。頭の中だけで考えるより、AIと話しながら分解するほうが、抜け落ちていた工程に気づけます。

■ 分解できないと、両極端に振れる

仕事を分解できないと、人は二つの極端に振れます。ひとつは「うちの仕事はAIには無理だ」と、まるごと拒んでしまうこと。もうひとつは逆に、全部AIにやらせようと、判断まで丸投げしてしまうことです。

どちらも危ういのです。前者はAIの恩恵を取りこぼし、後者は判断の質を落とします。分解する力がないと、この両極端のあいだで適切な線を引けません。ちょうどよい任せ方は、工程に割って初めて見えてくるものです。

■ 組織開発の視点:分解は「委任」の前提である

この分解する力は、実は新しい話ではありません。組織開発でいう権限委譲そのものです。

部下に仕事を任せるときも、できる管理職は仕事を工程に割り、ここまではあなたが進めて、この判断は私が引き取る、と線を引きます。丸投げでも抱え込みでもない、その中間を設計する。AIへの委任は、これとまったく同じ構造です。だからこそ、人に任せるのが上手な経営者は、AIに任せるのも上手い。分解する力は、人にもAIにも共通する、委任の基礎体力なのです。

■ 分解は、人を育てることにもつながる

もうひとつ、分解には副産物があります。工程に分けて言葉にすると、これまで自分の頭の中だけにあった暗黙知が、目に見える形になります。

見える化された工程は、そのまま部下への教材になります。この仕事はこういう手順でできている、と示せれば、人は格段に学びやすくなる。AIに渡すために分解した工程が、結果として人の育成にも効いてくる。分解する力は、組織の知恵を次の世代へ引き継ぐ力でもあるのです。

■ 経営者のためのAction

まずは、自分の主要な仕事をひとつ選び、AIと対話しながら五つから十くらいの工程に分解してみてください。頭の中で考えるのではなく、AIに「この仕事の工程を一緒に洗い出してほしい」と頼み、やり取りしながら並べていくのがおすすめです。

工程が並んだら、それぞれに、AI・人・両方のいずれかの印をつけます。これだけで、どこを任せ、どこを握るべきかの地図ができあがります。分解できない仕事は、AIにも人にも任せられません。逆に、きちんと分解できた仕事は、その瞬間から任せられる仕事に変わります。経営の基礎体力としての分解する力を、まずは自分の一日から鍛えてみてください。