「AIを導入したのに、現場は何も変わらない」。経営者や後継者の方と話していると、しばらくして必ずこの相談が出てきます。
最新のツールを契約した。社員にも「使ってみてほしい」と伝えた。それなのに、半年たっても会社の動き方は以前のまま。むしろ「よく分からない」「結局これまでのやり方が早い」という声だけが増えていく。期待が大きかったぶん、落胆も大きいものです。
私自身、自分の会社をAIで動かしていく過程で、同じ壁にぶつかりました。そして気づいたことがあります。組織は、AIを入れた瞬間に変わるのではありません。「道具」「仕事」「人」「組織」という順番を、ひとつずつ通って変わっていきます。この順番を飛ばそうとすると、たいてい空回りします。
■ 第一段階:道具が入る
はじめに起きるのは、道具が手に入ることです。ツールを契約し、アカウントを配る。ここまでは、お金を払えば誰でも到達できます。けれども、道具が入っただけでは、会社は一ミリも変わりません。新しい電動工具を買っただけで家が建たないのと同じで、ここはまだスタート地点に過ぎないのです。多くの会社が「導入したのに変わらない」と感じるのは、この段階で止まっているからです。
■ 第二段階:仕事のやり方が変わる
次に来るのが、仕事の手順そのものを組み替える段階です。これまで人が順番にこなしていた作業を、どこをAIに任せ、どこを人が引き取るか、という観点で並べ直します。
私の会社では、夜のあいだに下調べや整理をAIに任せ、朝になったら人がその結果を見て判断する、という流れに変えました。すると、朝いちばんの仕事が、ゼロから資料を作ることから、AIがまとめた案を吟味することへと変わりました。道具に人が合わせるのではなく、仕事の流れのほうを設計し直す。ここで初めて、はっきりとした手応えが出てきます。
■ 第三段階:人の役割が変わる
仕事の流れが変わると、人に求められることも変わります。下ごしらえをAIが担うようになると、人の出番は作業から判断へと移っていきます。
これは、経営者にとっても管理職にとっても、けっこう大きな転換です。これまでは、たくさん手を動かせる人が頼られていました。それがこれからは、AIの出した案の良し悪しを見抜ける人、最後の責任を引き受けられる人が、評価される側に回ります。役割が変わるのですから、戸惑いや抵抗が出るのは当然です。ここを飛ばして「とにかく使え」と号令だけかけても、人はついてきません。
■ 第四段階:組織が変わる
人の役割が変わって、ようやく組織そのものが動き始めます。情報の流れ、会議の持ち方、誰が何を決めるのか。そうした構造や習慣が変わっていって、ここまで来て初めて、会社が変わったと呼べる状態になります。逆に言えば、組織の変化はいちばん最後にしか起きません。経営者が最初に思い描くのは、たいていこの第四段階の姿です。けれどもそこへは、三つの段階を順に踏まないとたどり着けないのです。
■ 組織開発の視点:変化には層がある
組織開発の世界では、変化は個人からチーム、そして組織へと、層を順に通っていくと考えます。いちばん外側にある制度や仕組みだけをいじっても、内側にいる一人ひとりの行動が変わらなければ、やがて元に戻ってしまう。AIの導入も、これとまったく同じ構造をしています。道具という外側から入って、最後にいちばん内側の組織文化が変わる。順番を守ることが、遠回りに見えて、じつはいちばんの近道になります。
■ 経営者のためのAction
まず、自社が今どの段階にいるかを見極めてください。おすすめのやり方は、ここ半年のAIの使われ方をAIに説明し、「これは道具・仕事・人・組織のどの段階で止まっていると思うか」と問いかけてみることです。自分だけで眺めると、つい先の段階を期待してしまいますが、AIと対話しながら整理すると、現在地が客観的に見えてきます。
そのうえで、次の一段階だけに集中することです。道具で止まっているなら、まずひとつの仕事の流れを組み替える。仕事が変わったなら、人の役割の変化を言葉にして共有する。一度に四つを変えようとせず、ひとつ上がるごとに足場を固める。組織が変わるのは、いつだっていちばん最後です。焦らず順番を守った会社だけが、その景色にたどり着きます。
