経営者の方のAIへの反応は、だいたい二つに分かれます。
一つは、「AIで、うちの仕事もすべて変わる」という過剰な期待。もう一つは、「うちのような会社には関係ない」、あるいは「なんだか怖い」という過剰な警戒です。
面白いことに、この両極端は、まったく同じ結果を招きます。組織が動かない、という結果です。期待が大きすぎれば、現場はやがて「結局、そんな魔法はなかった」と幻滅して、足を止めてしまう。警戒が強すぎれば、そもそも一歩も踏み出さない。どちらも、実にもったいないことです。
では、いったいどう捉えればいいのか。二年間、自分の会社でAIを使い倒してきて、私がいちばんしっくりくる言い方にたどり着きました。AIとは、「とても優秀だけれど、時々堂々と嘘をつく、決して疲れない新人」だ、というものです。
■ 優秀で、時々嘘をついて、疲れない
まず、とても優秀です。研修案内メールの下書きも、資料のたたき台も、驚くほど速く、それなりの完成度で仕上げてきます。とても新人とは思えない仕事ぶりです。
ところが、時々、実に堂々と嘘をつきます。整った文章のなかに、事実をほんの少しだけずらした、それらしい間違いを、自信たっぷりに混ぜてくるのです。自分が詳しい分野であればすぐ気づきますが、知らない分野になると、つい鵜呑みにしてしまいそうになる。ここが、いちばん怖いところです。
そして、疲れません。それでいて二十四時間、何度やり直しを頼んでも、文句ひとつ言わずに働き続けます。
この三つを同時に備えた存在を、「魔法の箱」と呼ぶのも、「脅威」と恐れるのも、どちらも的を外していると感じます。これはつまり、とても優秀ではあるけれど、まだ全面的には信用しきれない、一人の新人なのです。
■ ならば、接し方は「新人を持つ上司」と同じ
そう捉えると、やるべきことは、はっきりしてきます。組織開発や管理職育成の世界では、新人マネジメントの原則は、昔から変わりません。任せる範囲をまず決めること。出てきた成果物を、きちんと確認すること。フィードバックして育て、少しずつ任せる範囲を広げていくこと。そして、最終的な責任は上司が引き受けること。この四つです。
AIも、まったく同じでした。先ほどの「過剰な期待」は、新人にいきなり何もかも丸投げして大失敗するのと同じこと。「過剰な警戒」は、見どころのある新人に何の仕事も与えず、宝の持ち腐れにしてしまうのと同じことです。どちらも、新人育成では「やってはいけないこと」として、昔からよく知られています。私たちは実は、AIとの付き合い方の答えの多くを、人を育てる経験を通じて、すでに知っているのです。
■ 「導入する」のではなく「迎える」
ですから私は、AIを「導入する」というより、「優秀な新人を一人、迎える」感覚で組織に入れることを、おすすめしています。最初から完璧を求めず、得意な作業から少しずつ任せ、出力を確認しながら、任せられる範囲を広げていく。経営者の役割は、その新人に対して、「何を任せ、何を確認し、どう育てるか」という方針を、組織に示すことです。道具として身構えるより、人を一人迎えるつもりで向き合ったほうが、AIははるかにうまく活きます。
■ 経営者のためのAction
まず一つ目に、AIを「とても優秀な新人」だと思って、ご自身で一度、簡単な仕事を頼んでみてください。
二つ目に、出てきたものを見て、「どこは信用でき、どこは確認が要るのか」を、肌で感じてみてください。
そして三つ目に、「時々、嘘をつく」ことを前提に、重要な文章や数字は必ず人が最終確認をする、という線を、組織のルールとして決めておいてください。
次回は、この新人にうまく仕事を任せるための前提となる、「組織が変わる順番」、すなわち道具から仕事へ、仕事から人へ、そして組織へと変化が広がっていく順序について、お話しします。
